長女の拒食症克服記録♯14真夏のビーチで泣き崩れる①
12年前の、海の日のこと
私たち家族は沖縄旅行を計画していました。
が、台風で旅行がキャンセル。
娘たちの希望で、近場の北陸の海へ海水浴に行くことにしました。
北陸の海って、みなさんご存知ですか?
とっても美しいのです。
娘たちが初めてシュノーケリングして、大喜びでお魚と泳いだのもこの北陸の海でした。
本当に、大興奮だった。
「お魚になったみた〜い」
真っ黒に日焼けして、満面の笑みで「また来年も来ようね」って。
たったの一年で、ガリガリに痩せ細り、別人のようになってしまった長女の姿はビーチで人の目を引きました。
まるで、理科室の骸骨の模型。
それに人の皮が被ったよう。
「人の骨組みってこうやって作られてるのね」って分かるくらいの生きた標本のようだった。
「見ないで!」
「お願いだから、そんな目でうちの娘を見ないで…」
そう、私は心で叫んでいました。
賑やかな海水浴場にそぐわないその姿を、心配そうに、また、好奇な目で見られているような気がして、私はいたたまれなくなった。
次女とパパが勢いよく海に突進する。
やっと家族でお出かけできた!
しかも、海だ!
楽しそうに、嬉しそうに手を振る次女。
「ママ〜、早くおいで〜」
それを、無表情でぼーっと眺める長女。
なにを思っているんだろう。
海に入らないのかな。
こんな時も、この子は食べ物のことを考えているのだろうか。
そんなことを隣に座っていて思いました。
いつまでたっても来ない私たちに、何度もこちらを見て手を振る次女。
ニコニコと嬉しそうな次女の笑顔が、不安げな貼り付いたような笑顔に変わっていくのが、鈍感な私でもわかりました。
「ママ、一緒に来て」
長女は不意に立ち上がり、私の手をにぎり海に向かいました。
「ひいぃっ」
立ち止まる長女。
身体の強張りが伝わってくる。
「ママぁ…。冷たくてこれ以上すすめない…」
くるぶしの上あたりのところで立ち往生。
顎がガチガチと、全身も震えています。
ギラギラと太陽が照りつけて、ジリジリと背中が焼けていく。その日は本当に暑くて、海水も驚くほどぬるかった。
これが?この海水が冷たいの?
動けなくなるほど、冷たいの?
何が起きてるの?
近づいてきた次女は、お姉ちゃんの様子に立ちすくみます。
「パパのところに行って!あっちに行け!」
泣きながら、次女に怒鳴りつけました。
隣では小さな赤ちゃんがペタンと座ってお腹まで海水に浸かり、キャッキャとご機嫌に遊んでいます。
周りの歓声、波の音、感触。
海の匂い。
浮き足だった、夏の初めの海水浴場。
腰に浮き輪をつけたまま身動きとれずに泣き崩れる長女の身体を支えながら、自分たちだけが切り取られ、取り残され、遮断された世界にいる。
そんな気がしました。